バッハの「インヴェンション」は、クラシック音楽を深く学ぶ上で避けて通れない教本の一つです。
「左右の手を独立して動かす」「多声部の音を聴き分ける」など、演奏の高度なテクニックや音楽的表現を磨くのに最適と言われていますが、難しそうに感じてしまう方も多いかもしれません。
本記事では、「インヴェンション」の概要や特徴、上達のコツなどをわかりやすく解説します。
ピアノ教本「インヴェンション」とは?
インヴェンションの歴史と概要

「インヴェンションとシンフォニア」は、バロック時代に活躍した音楽の巨匠ヨハン・セバスティアン・バッハが作曲したピアノ(クラヴィーア)練習曲集です。
- 2声のインヴェンション(全15曲)
- 3声のシンフォニア(全15曲)
それぞれ短めの曲でありながら、左右の手で独立したメロディを同時に奏でるポリフォニック(多声音楽)な特徴があります。
演奏者には、音の重なりやハーモニーのニュアンスを繊細にコントロールする力が求められます。
インヴェンションはなぜ有名?

- 多声音楽(ポリフォニー)の基礎を学べる:バロック音楽の代表的スタイルを体験することで、音楽全般の理解が深まります。
- 高度なテクニックと表現力が身に付く:一見シンプルな楽譜でも、実際に弾いてみるとかなりの集中力とテクニックが必要です。
- クラシック音楽のレパートリーとして定番:ピアノ学習者が「中級~上級」を目指す過程で通ることが多く、コンクールや試験の課題曲にも選ばれやすいです。
(※ポリフォニーの曲とは、右手のメロディ+左手の伴奏に留まらず、左手にも別のメロディが現れる音楽です。)
インヴェンションの特徴

メリット
◯左右の手を均等に鍛えられる
メロディが右手・左手両方に現れるため、どちらか一方に偏ることなく演奏技術がバランスよく向上します。
◯ポリフォニックな表現力が身に付く
複数の声部を同時に鳴らしながら、それぞれを独立して歌わせる力が養われます。これにより、ほかのクラシック曲でも音のレイヤーを意識した表現がしやすくなります。
◯音楽理論の理解が深まる
インヴェンションの曲は、主題がさまざまな形で展開される構造をもつため、和声や対位法などの理論を学ぶ良い機会となります。
デメリット
◻︎ 初心者には取り組みにくい
バイエルやブルグミュラーを終えた直後の学習者にとっては、ポリフォニーを弾く難易度が高く感じられます。
◻︎ 表現が抽象的で分かりにくい
現代音楽やロマン派のように明確なメロディ進行や和声進行が少なく、最初は曲の魅力を捉えづらい場合があります。
◻︎ 音を整理する作業が必要
左右の手が干渉し合わないよう、どの声部を強調するか、ペダルをどのように使うかなど緻密な計画が必要になります。
インヴェンションの効果的な学習方法
インヴェンションの学習方法について、練習のコツとモチベーションを維持する方法をまとめました。
練習のコツ

◯ 片手ずつ、声部ごとに練習する
右手と左手の声部を最初に別々に練習して、メロディラインやリズムをしっかり把握しましょう。曲によっては2声や3声それぞれを独立して取り出して練習すると、構造を理解しやすくなります。
◯ ゆっくりテンポで音の重なりを確認
ポリフォニーの演奏では、音が重なるタイミングを正確に捉えることが大切。最初はメトロノームを使ってゆっくりと、各音を明確に鳴らす練習をしましょう。
◯ 強弱やアーティキュレーション(スタッカート、レガートなど)を丁寧に
バッハの曲は楽譜に明確な強弱記号が少ない場合がありますが、そこを工夫して弾くことで音楽に立体感が生まれます。
モチベーションを維持するポイント

◯ 短いフレーズ単位で達成感を積み重ねる
インヴェンションは曲全体が長くないため、2小節や4小節ごとに細かく目標を設定すると、上達を実感しやすいです。
◯ 録音して客観的に聴き返す
自分の演奏を録音し、重なり合う声部がクリアに聴こえているか、リズムが乱れていないかなどをチェックすると効果的です。
◯ 解説書やレッスンで理論的背景を学ぶ
対位法やバッハの作曲技法を少し理解すると、曲の魅力が一段と増し、モチベーションにもつながります。
インヴェンション以外のピアノ教本との比較
バーナム

難易度・学習段階:導入~初級
主な特徴
棒人間イラストを交えた短い小曲で、楽しみながらメロディやリズムの基礎を学べる
どんな人におすすめ?
バイエルやブルグミュラーを始める前にウォーミングアップとして取り入れると、指の独立や動きをスムーズに習得しやすい
バイエル

難易度・学習段階:超初心者~初級
主な特徴
ピアノの基礎となる指使いや譜読みを段階的に習得できる
おすすめの人
・まったくの初心者、独学で始める人
・ピアノの初歩的な土台を固めたい人
ハノン

難易度・学習段階:基礎を学ぶ初心者から上級者まで幅広く活用可能
主な特徴
・スケールやアルペジオなどの繰り返しパターンで指の運動能力を集中的に強化
・メロディ要素がほとんどないため、ウォーミングアップや苦手テクニックの補強に最適
どんな人におすすめ?
・指の独立性を高めたい人
・これから先の練習曲(ツェルニーやインヴェンション等)に向けて、基礎テクニックを安定させたい人
ブルグミュラー

難易度・学習段階:バイエル修了後~初級~中級手前
主な特徴
美しくメロディアスな曲を通して、表現力とテクニックをバランスよく学べる
おすすめの人
・曲想を楽しみながら、より高度な演奏力を身につけたい人
・バイエルの次のステップとして、音楽性を広げたい人
ツェルニー

難易度・学習段階:初級~上級(30番、40番、50番など)
主な特徴
指の独立性や速い指の動きなど、テクニック強化に特化した練習曲
おすすめの人
・指をしっかり鍛えたい、クラシック曲の演奏を安定させたい人
・単調さを感じにくいよう、モチベーション維持に工夫が必要
ソナチネアルバム

難易度・学習段階:ツェルニー30番やインヴェンションと並行~中級
主な特徴
古典派のソナチネを中心に収録し、曲の構成把握や表現力向上を促す
おすすめの人
・バロックから古典派へステップアップし、より大きなクラシック曲に挑戦したい人
・音楽理論や構成理解を深めたい人
学習の流れの一例

- バーナム(導入~初級):棒人間のイラストで楽しく基礎を習得
- バイエル:ピアノの基礎(音符、リズム、指使いなど)を身につける
- ハノン:指の独立性や運動能力を高めるエクササイズ
- ブルグミュラー:メロディの美しさと表現力を重視しつつ、初級~中級手前のテクニックを伸ばす
- ツェルニー(30番程度):指の独立性や速い指の動きなど、より高度なテクニックを習得
- インヴェンション:多声部の表現力や、左右の手の独立を本格的に学習
- ソナチネアルバム:古典派の曲構成を学び、中級レベルへと進む
学習者の状況や目的によって順序は前後します。
たとえば、早めにインヴェンションに触れながらツェルニーを並行して進めるなど、柔軟に対応する指導者も多いです。
インヴェンションの次のステップ:中級者以降の学習プラン

インヴェンション修了後におすすめの教本・楽曲
◯ ソナチネアルバム
バロックから古典派へと時代を移し、ソナタ形式や長い楽曲の構成を学ぶ段階に進むと、演奏の幅が広がります。
◯ 平行してショパンやロマン派の小品
モーツァルトやベートーヴェンなどの古典派と並行して、ロマン派の小品(ショパンのワルツやノクターン、シューマンなど)に挑戦すると、多様な表現を学べます。
レッスンやオンライン学習との併用
◯ ピアノ教室でのレッスン
多声部の表現は独学では気づきにくいポイント(アーティキュレーションや音量バランスなど)が多いため、ピアノの先生からのフィードバックが重要です。
◯ オンラインレッスン
遠方や忙しい人でもレッスンを受けやすい点がメリット。録画・録音を活用して、声部のバランスを客観的に確認することもできます。
まとめ:ピアノ教本「インヴェンション」の上手な活用方法
インヴェンションは、バッハの作曲技法を学びながら左右の手を独立して動かす能力を鍛え、多声音楽の魅力を味わえる非常に意義深い教本です。
- メリット:バロック音楽の本質に触れ、ポリフォニックな表現力を習得できる
- デメリット:初心者には難易度が高く、表現が抽象的で理解しづらい側面も
- 効果的な練習方法:片手ずつの分解練習・ゆっくりテンポで音の重なりを確認・アーティキュレーションを丁寧に
- 次のステップ:ソナチネアルバム、ロマン派の曲へ進み、表現の幅を広げる
インヴェンションを学ぶ中で、「音楽が立体的に響く」というバロック音楽の醍醐味を存分に味わうことができます。
最初は難しく感じるかもしれませんが、曲の構造や声部の動きを理解し、ゆっくりと正確に練習を重ねることで、演奏力と音楽の理解度が飛躍的にアップするはずです。